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「禁酒文芸 百人一首」

(小諸禁酒会編著 日本国民禁酒同盟出版部、大正12年)

 (この資料は仙台市宮城野区萩野町在住の仙台郷土研究会会員・佐伯昭氏が古書店で発見したものです。)


 飲むたびに 色魔と人に 嫌われて  恋に朽ちなん 名こそ惜しけれ
 目がさめて 故郷の空を 思ふ時  恋しかるべき 夜半の月かな
 酒の為め 滅び衰(おとろ)ふ 世の中に  花ぞ昔の 香に匂ひける
 蔭ながら 君の禁酒を 祈りつゝ  待つも昔の 友ならなくに
 酒呑みに 正義を容るゝ 余地もなし  雲のいづこに 月宿るらむ
 良心の 呵責(かしゃく)はいつも 身に添うて  我立つそまに 墨染の袖
 世の中は 常に禁酒の 気がみちて 海人(あま)の小舟の 綱手かなしも
 雨風も 凌ぐ禁酒の 旗しるし  濡れにぞ濡れじ 色はかわらず
 屁理屈を 酒に目醒めぬ 旧思想 古り行くものは 我が身なりけり
 自覚なき 禁酒はかけて 出すよだれ  イゝ神酒とてか 恋いしかるらん
 酒のため 中毒したる 命さへ  長くもがなと 思いけるかな
 きぬきぬの 別れ所か 宿酔(ふつかよい)  なほ恨めしき 朝ぼらけかな
 酔どれの 川に流るゝ さま見れば  からくれないに 水くぐるとは
 禁酒して 尽くす誠意は 心ある  人に知られて 来るよしもがな
 養老の 瀧をひらいて 発電所 今一度(ひとたび)の 御幸またなん
 飲むも自棄(やけ) 飲めぬも自棄の 身の末は  人目も草も 枯れんと思へば
 酒ゆへに 楽しき友も へだてられ  外山のかすみ 立たずもあらなむ
 取れば呑み 借りれば飲んで うかうかと  哀れ今年の秋も 去(い)ぬめり
 あと先も 飲めば夢中の はしご酒  はげしかれとは 祈らむものを
 禁酒家の 地位はなくとも 人格は  雲井にまがふ 沖津白浪
 誘惑も 意志の力で 打勝ため  末の松山 浪こさじとは
 紅葉して 散りにしあとの 偲ばれて  山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
 飲みすぎて 川に落ちたる 酔いどれは  衣ほすてふ 天の香具山
 酒なくも 三国一の 花嫁子  富士の高嶺に 雪は降りつゝ
 うわべだけ 禁酒はつらき 盃を  さしもしらじな 燃ゆる思ひを
 だらしなく 呑みつぶれたる 生酔の  夢の通路(かよいじ) 人目よくらむ
 放蕩の友や いづこにさまよえる  身を盡くしても 逢わんとぞ思ふ
 飛鳥山 酒に乱せし 醜態を  花より外に 知る人もなし
 酒のため 貞婦の暫し 泣き別れ  われても末に 逢わんとぞ思ふ
 禁酒した 心のさまは 雲間より  洩れ出づる月の 影のさやけさ
 閨寒き 妻は涙の 枕紙 幾夜寝覚めぬ 須磨の関守
 かけ落も 酒が取り持つ 無分別  行方も知らぬ 恋の道かな
 信用も 地位も名誉も 酒故に  砕けてものを 思ふころかな
 酒飲みの 妻は留守居を 胸の火に  焼くや藻塩の 身もこがれつゝ
 返電と 禁酒はすぐはするものよ  急ぎぞ「ナツ」の しるしなりけり
 証文は 親代々の 酒の借  猶あまりある 昔なりけり
 飲む度に 夫婦喧嘩の 絶えまなし  芦のまろやに 秋風ぞ吹く
 流れより 清き禁酒の 名声は  立田の川の 錦なりけり
 酒飲の 末路はことに 哀れなり  いづこも同じ 秋の夕暮
 過去の夢 妻や子供に あの苦労  かけしや袖の 濡れもこそすれ
 禁酒する 人の一人も 多かれと  あまりてなどか 人の恋しき
 折角の 禁酒も 意志の弱きため  貫き止めぬ 玉ぞ散りける
 夜具も飲み 布団も飲んで 寒空に  衣かたしき ひとりかもねん
 禁酒して 蔭で飲んでも 人前は  忍ぶることの よわりもぞする
 取り敢えず 酒と煙草と 手向山 紅葉の錦 神のまにまに
 別れても やがて禁酒の 日を待ちて  今一度(ひとたび)の 逢ふ事もがな
 我庵(いほ)は 禁酒禁煙茶話の会  世を宇治山と 人はいふなり
 清き愛 酒の力を からずとも 身を盡くしてや 恋わたるべき
 飲む者も 酒の害ある 事柄を  人には告げよ 天のつり舟
 酒飲みと 美人の末は 徒(いたずら)らに 我身世に経る ながめせしまに
 醒めてから 覚えなき身の 失態を  知るも知らぬも 大酒の癖
 生酔の 道行く人を 追ひまわし  乙女の姿 しばしとどめむ
 飲み明かし いつも帰りは 夜明け頃  かたぶく迄の 月を見し哉
 酒故に 世に容れられぬ 人材は  雲隠れにし 夜半の月かな
 飲み過ぎて ツイ場所柄も 憚らず  いでそよ人を 忘れやはする
 世を挙げて 禁酒ぞ 我れの 理想郷 未だ踏みも見ず 天の橋立
 青い息 庭にぼんやり 思案顔  霧立ちのぼる  秋の夕暮
 目が醒めて 漸く酒の 害を知り  かこち顔なる 我涙かな
 禁酒して 晴ればれしたる 心こそ  三笠の山に 出(いで)し月かも
 酔覚の ぼんやりしたる 顔の色  白きを見れば 世ぞ更けにける
 酒ゆえに 身を誤りし 人々の 名こそ流れて 猶聞こへけり
 飲み過ぎて 脳溢血と なる人は  今日を限りの 命ともかな
 酒のため 受けし 国家の害毒は  いかに久しき ものとかは知る
 不景気で 酒飲む人は 悲しけれ  我身一つの 秋にはあらねど
 寝もやらず 夫の帰り 案じつゝ 有明の月を 待ち出づるかな
 世の為めに 禁酒を叫ぶ 宣伝の  声ぞ積もりて 淵となりぬる
 円満の家庭も 今は酒故に  乱れ初(そ)めにし 我ならなくに
 悔悟して 先に別れし女房を  待つとし聞かば 今かへりこむ
 隔たれる 友に禁酒の 宣伝を  人伝(づて)ならで 言うよしもがな
 酒乱から 地位名望も 水の泡  世に大酒の 癖は許さじ
 禁酒して 国家に盡す 真心の  あらわれわたる 瀬々の網代木(あじろぎ)
 呑むなとも 呑めとも言われ 決心の おきまどわせる 白菊の花
 歓楽の 栄華も夢と 消え果てゝ 吉野の里に 降れる白雪
 夜ふかして 勤めもつ身の 宿酔(ふつかよい) 暁ばかり 憂きものはなし
 酒は醒め 質は受け出す 当てもなし  流れもあえぬ もみじなりけり
 気がついて 酒の害ある 事だけは 人知れずこそ 思ひそめしが
 禁酒した 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
 酒飲んだ 夜の元気は 朝醒めて  昼は消えつつ ものをこそ思え
 落ちぶれて 飲友達も 遠ざかり  人こそ見えね 秋は来にけり
 人道の 為に禁酒の 宣伝が  けふ九重に 匂ひぬるかな
 友人の意見も 聞かず 飲む人は 身のいたずらに 成りぬべき哉
 落ちぶれて 飲まぬ昔を 思ひなば  憂(う)しと見し世ぞ 今はこひしき
 酒飲の 家庭のさまは 今更に  乱れてけさは 物をこそ思へ
 酒やめて 又飲むことの なかりせば  人をも身をも 恨みざらまし
 家も田も 飲んで後悔 する時に  我が衣手は 露にぬれつゝ
 嬶々(かか)を出し 娘を売って 呑平が ながながし夜を 独りかも寝ん
 酒飲みが 夫婦喧嘩で 泣き叫ぶ 声聞く時ぞ 秋は悲しき
 飲み潰し 住む家もなく 冬空を 我衣手に 雪は降りつゝ
 改善を 吾関せずの 呑平は  泡で此の世を 過ごしてよとや
 呑むからに 家財道具は 減るばかり むべ山風を 嵐と云うらん
 酒を呑み 女を買った むくいにて しず心なく 鼻のちるらん
 禁酒して 子孫の為を はかれかし  人に命の おしくもあるかな
 家蔵(いえくら)を 呑んで今さら 思案顔  物や思ふと 人の問ふまで
 飲み潰し 夜逃げをしたる 其跡は 唯有明の 月ぞ残れる
 禁酒して 又飲む人の 気が知れぬ  甲斐なく立たん 名こそ惜けれ
 酒ゆえに 世に捨てらるゝ 人々の  憂きにたへぬは  涙なりけり
 社会から 酒を除くも 主義のため  世を思ふ故に 物思ふ身は
 飲歩く 留守には独り 泣く妻の 閨のひまさえ つれなかりける
 酒飲みの 妻子は絶えぬ 憂き涙  人こそ知らね 乾く間もなし
 酒の為 我家は人の 手に渡り  故郷さむく 衣うつなり
 

  

財団法人 日本禁酒同盟
Japan Temperance Union


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